無用の用「床の間」

 

無用の用「床の間」

 

そこには自分の家の空気、香りがあります。

今日の住宅ではだんだん見かけることが少なくなってきましたが、かつては日本の家には必ずといっていいほど床の間がありました。

 

今、確実に床の間を目にすることができるのは、お茶室や本式のお座敷がある料亭や旅館などでしょうか。
客間の一画が一畳分ほど周囲より高くなっていて、壁には掛け軸が掛けられ、季節の花が活けられます。
床の間には雑物を置かない、という約束事もありました。

 

 

 

また、床柱を背にした場所が部屋の上座と決まっており、上座をすすめることは、すなわちお客さまへの敬意を示すこと現わします。
床の間がない現代の部屋にあっては、上座をどこにとればいいかわからないという不便さがあるかもしれません。

 

床の間が一般的でなくなってしまった今の家屋にあって、では床の間の役割を担っているのはどこかというと、玄関ではないかと思います。
スペースの広さはいろいろですが、やはり花を欠かさず、掛け軸とまではいかずともお気に入りの絵を飾ったりします。
これは季節を香らせ、お客様を迎える顔として床の間を簡略化したものといえるのではないでしょうか。

 

床の間という存在は、いわば「無用の用」です。
役に立たないけど必要な物。
それがあるから、自分の家に帰ってきたとしみじみ感じます。
なぜなら、そこには自分の家の空気が、そして香りがあるからです

 

(本:和の美をめぐる50の言葉、木村孝)