虎屋吉末さんの餡

 

満田さんと

 

 歳月には力がある。

 

 「継続は力なり」という言葉があります。

何事においても、弛まず挫けず続けていくことが大切なんだ!という意味ですが、

この言葉があるということは、「継続するって、ほんと、難しいんだぜ」ということですね。

うん、うんと頷いている人も多いでしょう。

確かに継続は難しい。人間って真っ直ぐに歩けない生き物ですからね。

しかし、もちろんこの難しい「継続」を続けている人もたくさんいます。

何十年も同じ仕事を精進されている伝統職人さんとかがそうですね。

一人の職人さんが継続して仕事されている年数は50年ほどでしょう。

しかし、その職人さんのお父様、さらに祖父、その前の祖祖父・・・とたどると、

この「継続」は何百年の時間を数えることになりますね。

フ~とため息が出てきそうな時間です。

私たちが「伝統」の何かを素晴らしく思い、感銘するのは、

その内容はもちろんですが、この果てしない(と思ってしまう)時間の力にも圧倒されるからでしょう。

未来も続いていくと予感させる「時間の力」を、たんに「継続の力」と言ってしまうと、どうも見通しが悪いので、

私はそれを「歳月の力」と呼びたいという衝動に駆られます。

うん、そうだ、歳月には力があるのだ。

 

ということ考えてしまった今回の虎屋さんへの訪問でした。

 

虎屋吉末の店主、萬田さんは、和の素敵で毎月開催している「お茶会を百倍愉しめるためのお稽古」のときに、

とってもおいしい和菓子を持ってきてくださっています。

お茶会のお稽古ですので、毎回その季節、節季に合わせた美しい和菓子をいただいています。参加者に大人気で、

「今回はどんなお菓子なんだろう」と私も毎回楽しみにしています。

和菓子2

とてもシンプルな味わいなのです。余計なものが入っていない感じがします。砂糖の甘さが立つのではなく、

小豆の味がしっかりとする和菓子なのです。それがあんこ好きな私にはたまりません。

 

虎屋吉末さんは兵庫の御影で創業享和元年(1801)年の創業。御影、兵庫は神戸でもっとも古い町で、

兵庫は港で賑わい、戦前の御影は料理店が並び、芸者が行き交う町でした。

虎屋末吉さん

残念ながら平成7年の阪神大 震災で古い町並みの多くが大きな被害を受け、お店も全壊してしまいましたが、

開業当初の技術と六甲山の澄んだ「宮水」で、現在も御影でおいしい和菓子を作り続けています。

 

お店に伺って和菓子の元になる餡(あん)をどのようにつくっているのか取材させていただきました。

すべてのメディアの取材を断っている虎屋吉末さん。

私たちの取材を受けていただけたのは、「お茶会を百倍愉しむめのお稽古」でのご縁があったからです。

 

餡づくりはすべて萬田さんが手づくりでおこなっています。

一つひとつの行程はとてもシンプルです。しかし、シンプルがゆえに原材料と水には強いこだわりがあり、

とてもていねいな仕事です。餡はほとんどの和菓子の元になるものです。

 

使用する小豆は北海道産。

小豆1

 水は本店に200年以上前からある井戸の水、これが六甲山の「宮水」です。

六甲山中に降り注いだ雨水が、永い歳月をかけて「宮水」になるのです。

宮水

 御影周辺には昔から灘の酒造メーカーが数多くあります。その理由の一つはこの宮水です。

虎屋さんで飲ませてもらいましたが、たいへんまろやかで美味しいものでした。

 

餡作りは単純な作業に見えますが、一つひとつがとてもていねいにおこなわれます。

 まず、小豆を宮水でゴシゴシと洗います。

小豆の汚れと雑味になる不純物を徹底的に取り除くためです。

水洗い

きれいになった小豆を、皮と実を分離させるために釜で炊き、

皮と分離し柔らかくなった小豆の実を水にさらして濾します。

さらに、濾した小豆を袋に入れ圧縮機に入れ絞ります。

この過程を経るとパウダー状の小豆ができあがります。

曝した小豆

 パウダー状になった小豆の粉を、宮水と砂糖が入っている胴鍋に入れ、熱しながら撹拌していきます。

撹拌器へ2

熱を加え撹拌していくと粘りが出てきて、次第に餡になってきます。

餡になってくる

そして、頃合いをみて加熱と撹拌をやめ、熱い餡を冷やすためにパッドに移します。

移すタイミングは、胴鍋で熱し撹拌しているときの餡の粘度と、

鍋の中のグツグツという音を目と耳で頃合いを判断するようです。

パッドに移す

 パッドに移された餡は、熱を取るために上下を入れ替えるようにヘラでひっくり返します。

ちょうど炊きあがったご飯を蒸らすためにご飯の上下を入れ替えるような動きですね。

これは、熱を取るのと同時に、餡の蜜(糖分)を餡の底に溜めないための作業です。

蜜が溜まるとその部分が傷みやすくなるからです。

餡を返す

 こうしていろんな和菓子の元になる餡ができあがります

餡

 

こう書くととても単純で誰にでもできるようなことに思えますね。

ところが、その一つひとつの仕事がとても繊細で、理にかなっているのです。

厳選された材料と宮水、そしてていねいな仕事。

これだけのことですが、

これらが有機的に結びついて、

虎屋さん独特の雑味のない、シンプルだけどしっかりとした餡が産み出されます。

一連の仕事を見させていただいているとき、

何年も前のサントリー山崎ウイスキーのCMコピーを思い出しました。

「なにも足さない、なにも引かない」

 

歳月の力がみなぎっている小豆や宮水には力があります。

それを虎屋吉末さんの歳月で餡にする。

それ以上に、足すものも引くものもありません。

 

そんな虎屋さんの餡づくりです。

最近とてもおもしろく読んだ日本食を紹介したベストセラー本、

「英国一家、日本を食べる」の著者マイケル・ブースにぜひ食べさせたいと思った和菓子でした。