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「松風」を聴く  茶の湯で釜のたぎる音

 

日本には素敵な音がたくさんある

こんにちは。

七十二候では「魚氷に上る」頃。
冬の間、氷の下の冷たい水の中でじっとしていた魚たちが春を感じ取り、元気よく動き始めます。
立春を2週間ほど過ぎて、満作や雪柳などが咲き出しますが、広がる景色の色合いは、まだまだ冬の様子が強く、寂しげな風景は続きますね。

寒さも行きつ戻りつして、まるで㋂中旬のような暖かさになったと思ったら次の日はやっぱりキュっと引き締まる寒さだったり。
この時期は椿の花が「ぽとり」と落ちていていきます。

「落ちていく」という日本語の花の終わり、散る表現って美しいですね。
椿の「落ちる」、桜の「散る」、椿の「こぼれる」、朝顔の「しぼむ」、菊の「舞う」、牡丹の「崩れる」、萩の「こぼれる」。
日本人ならこの言葉でその風景が頭に浮かんできます。

そして、そこに「音」が。
椿の花が落ちるときは「ぽとり」と。
自然ととけあう毎日を過ごしていると、感性が素直に心に響くのでしょう。
そんな毎日を過ごしたいですね。

さて、今日は茶の湯の世界で、その「音」を聞いてみたいと思います。

 

「松風」とは、茶の湯で釜のたぎる音

禅のお寺では古くから飲茶の風が盛んに行われていました。
禅僧の語録の中に茶のことが屡々(しばしば)いわれていても不思議ではありません。
南宋の虚堂(きどう)の語録に次のような一偈(いちげ)のあることは、極めて興味深いです。
この一偈を解釈するに、見慣れない文字が並んでいて、一般には何をいっているのかわからないことになるかも知れませんが、原文を挙げて大意をいうと次のごとくになります。
その一偈とは楼司令という司令の官にある楼氏に、茶を贈るに当たってよんだものです。

 

暖 風 雀 舌 閙 芳 叢  暖風雀舌(じゃくぜつ)芳叢(ほうそう)に閙(さわが)し

出 焙 封 題 献 至 公  焙(ばい)を出(いだ)し封題して至公(しこう)に献ず

梅 麓 自 来 調 鼎 手  梅麓(ばいろく)もとより調鼎(ちょうてい)の手

暫 時 勺 水 聴 松 風  暫時水を勺(く)んで松風(しょうふう)を聴く

 

というのである。

「暖風」は春の暖かい風、「雀下」は茶の若芽、「芳叢に閙し」は茶園での茶摘みのにぎやかさ、「焙を出す」は摘んだ茶をあぶるために焙炉を出すこと、「封題して至公に献ず」とは茶を包みに封印して楼司令に献ずること、「梅麓」は楼氏の号、「調鼎の手」は王佐の才をいうに併せて茶を按排すること、「暫時」は閑暇の時、「水を汲んで松風を聴く」とは釜に水を汲み、湯をわかしてその沸く音を聴くこと。

この一渇に興味深いものがあるというのは、茶の湯で釜のたぎる音を松風といいますが、そうした表現は、南宋あたりでいわれていたことの輸入に外ならないということです。
「茶経」では湯の沸くことを一沸とか、二沸とか、三沸とかいいますが、それが南宋の頃になるとその音を松風に託していうことにもなりました。
飲茶の風が薬料・飲料ということから、茶礼を重視するものになっていった過程が、この一言にも端的に知られるような気がしてならないです。

話が後先になりましたが、茶の湯という語は、上記の茶書がいずれも茶をたてるのに湯加減を喧(やかま)しくいっていることから、それに基づいてできた国語ではねいでしょか。

(本:「栄西 喫茶養生記」全注釈:古田紹欽さんより)

 

ありがとうございます。

「釜の六音」をご存知ですか。
「松風」はその中のひとつ。

鉄の釜が煮えるにつれなる音、茶室でしたか聞かれない音です。
昔なら多分、長火鉢に置かれた鉄瓶がチンチンと沸く、とか囲炉裏にかけた鍋が音をたてて煮えている、といったような光景も日常茶飯事だったでしょうけれど・・・。
今の湯沸し器との音とは違います。

茶室の朝、炭を置き、水を張った釜をかけ、火が熾り、やがて湯が湧きだします。
この湯の沸く経過を段階的に捉えたのが「釜の六音」です。

魚眼(ぎょがん)  魚の目玉のごとく小さい泡が連続している興るさま。
蚯音(きゅういん) 蚯音はみみずの鳴く声とのこと。
岸波(がんぱ)   岸波は岸に寄せる波の音。
遠浪(えんろう)  遠い波の音。
松風(まつかぜ)  佳境です。亭主と招かれた客とが会い相応して、釜の煮える音に耳を澄ませます。
無音(むおん)   ゆっくりお湯が沸き、波の音がし、松風の音がし、そして最後は無音になります。

釜の鳴り音が無言の茶室に響きます。
おごそかに一椀の茶が練られます。
冬の茶室には寒い身体を心から温めてくれる包み込むような音です。

今日も最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
お茶の世界、素晴らしい。利休はやっぱり素晴らしい芸術家ですね。

 

参考
本:「栄西 喫茶養生記」全注釈:古田紹欽さん
本:「くらしを楽しむ 七十二候」著:広田千悦子さん
ブログ:麻子ののほほんブログ
ブログ:茶の湯ワールド

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