歌舞伎のよこ道あるき♪第5回
東海道四谷怪談(その2)
前回に引き続き「東海道四谷怪談」。
四谷怪談といえば、やっぱりお岩さん。
「怖わかった、けどとっても美しかった!」
観劇後、そんなお声をたくさん聞きました。
◆お岩さんは醜女? 貞女?
江戸時代から、お岩さんには
いろいろな噂? 伝説?が、あったようです。
天明八(1788)年の『摸文画今怪談(ももんがこんかいだん)』には
「四つ谷に、間宮何某のひとり娘、いたって悪女(醜女)なり。
喜右衛門といえる者を養子として…」
喜右衛門は、つねづね女房の顔の醜いのを憂い
伊藤と秋山に相談。
「博打に負けた」と言って、衣類金子を持ち出し、
日々の貧しさを理由に離縁。
ひとりになった間宮の娘は、他家へ奉公。
喜右衛門は、伊藤の妹を嫁に迎え3人の子に恵まれ暮らしていた。
奉公先でそれを知った間宮の娘は、たちまち鬼女と化し
喜右衛門の家族5人。伊藤の家族7人。秋山の家族6人を取り殺した。
という話。
うんうん。
「東海道四谷怪談」の元ネタとして、とっても近い話ですね。
8月、於岩稲荷へお詣りに行ってきました!
四谷左門町にある於岩稲荷。
道路を挟んで2つあります。
どちらも、もとは田宮家の敷地だったようで
ひとつは、於岩稲荷田宮神社。
「於岩稲荷田宮神社」は、田宮家の屋敷社だったそうです。
お岩さんも毎日お詣りしていたという、お社。
もう一つは、陽運寺於岩稲荷。
「陽運寺於岩稲荷」には、お岩さんの立像が祀られているそうです。
縁結びとして、人気があるようです。
どちらも「お岩さん貞女派」です。
於岩稲荷田宮神社で配布されている資料では、
お岩は徳川家の御家人田宮又左衛門の娘で、
夫の伊右衛門とは人もうらやむ仲のいい夫婦だった。
ところが、俸給は十六石足らずで台所は火の車。
そこで、お岩は商家に奉公へ出て、
田宮家はかつての盛んな時代に戻ることができた。
という、とっても素敵なお話。
怪談のかの字も出てきませんね。
さらには、どちらの話も正しくて、
田宮家の別時代の女性であるなんて説も!
結局、お岩さんがどんな女性だったかは
よくわからないみたいです。
◆そこに愛は、あるのかい?
伊右衛門の激しい気性。
伊右衛門は、「色悪」という
「二枚目だけど根性は悪人」の役柄になります。
鶴屋南北が作りだした、新しい役柄ですね。
それまでの歌舞伎は、二枚目は、ヒーロー!
悪人は、見るから悪人顔!(笑)
こちらは、愛之助さんの伊右衛門。
若いお梅ちゃんがメロメロになっちゃう男前です。
「常から邪険な伊右衛門殿。男子を産んでも、喜びもせず…
生傷も絶えず、非道な男に添い遂げて辛抱するのも父さんの敵討ちのため」
と、お岩さんも嘆いていますが、
二人に愛はあったの?
序幕の伊右衛門は、
お岩さんの父に、お岩との復縁を願い出ます。
けっこうな、執着ぶりですよね。
お金持ちで、若いお梅との縁談も、「うん」とは言わない。
伊藤一家総出の「狂言自殺」に仕方なく、承諾した感じですよね。
ほとんど上演されないのですが
「蛇山庵室の場」の前に「夢の場」というのがあるんです。
伊右衛門がお岩の亡霊に悩まされて、気が狂いそうになっているとき
うとうとして見る夢。
これがね、美しい世界なんです。
ここで登場する伊右衛門は、お殿様。
お岩は、田舎娘。
鷹狩の最中、伊右衛門の鷹がお岩の住む家へ飛び込み
ふたりは出会い、見染める。
娘は、お岩ではない設定。
伊右衛門は、伊右衛門。
現実には、殿さまではないけど。
美しい娘をくどいて、くどいていい感じになって、
はっ! と、「お岩と似ている」と気づく。
その後は、恐ろしい展開になって
「ヤッ! 夢であったか!!」と目が覚めるのですが…
気が狂いそうになっているとき
若かったころ、美しかった、愛していたお岩を夢で見る。
こういう、鶴屋南北の世界観がたまらなく好きです!
強欲な伊右衛門は、貧乏が嫌だっただけで、
お岩さんのことは、愛していたんだと思います。
子どもは嫌いだったかもしれないけど。
お岩さんも、南北の初演本では
嫌いで別れたわけではないので、復縁を素直に喜んでいるんです。
それを横目にお袖が「うらやましい」と。
敵討ち目的だけで、一緒になったわけではなかったんです。
なんで、お岩さんが毒薬で顔が崩れた後に
鉄漿を塗って、髪を梳いて美しく身支度をしたいと思ったのか?
伊藤家にあいさつに行こうとしたんですよね。
若い娘に旦那を取られた!
その、ごあいさつに。
身支度をしているうちに、沸々と怒りが込み上げて
鬼女になってしまった。
敵討ちが叶わなかっただけで、怨霊になれるかな?
やっぱり、愛していた伊右衛門を取られたから怨霊になったんだと思います。
大ヒットの四谷怪談。
上演を繰り返される度に、役者さん、裏方さんたちが
いろいろ工夫されてきました。
お岩さんの外見の醜さ、恐ろしさ。
そして、早替わりや大道具を使ったケレンが、
注目を浴びていますが
この怪談は、愛なくして成りえない!
2019(令和元)年 十月 安積美香
ありがとうを世界中に
Arigato all over the World