魚屋宗五郎 歌舞伎のよこ道あるき♪第7回
歌舞伎のよこ道あるき♪
第7回 魚屋宗五郎
顔見世興行 夜の部で上演されている魚屋宗五郎。
豪快な酔いっぷりに大笑いしました!
江戸の風情も味わえて、好きなお芝居のひとつです。
が、前々から「新皿屋敷月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)」という
正式タイトルが気になっていたんですよね…。
◆新皿屋敷月雨暈
これは、今年の顔見世「魚屋宗五郎」のポスター。
まだ、お酒を飲む前
お蔦の死を悲しむ宗五郎ですね。
「魚屋宗五郎」の演目名の右となりに小さく
「新皿屋敷月雨暈」と書かれています。
このお芝居は、明治16年
河竹黙阿弥が五代目尾上菊五郎のために作った作品です。
菊五郎が、「酒乱の役をやりたい!」と頼んだそうです。
ものすごい発注ですね(笑)
初演時、もちろん菊五郎は宗五郎を演じています。
そして、もう一役
不義の疑いで殺されてしまった、宗五郎の妹のお蔦。
ということは、
「お蔦さん」は、とっても重要なお役ということ!
「魚屋宗五郎」で、ちらちらっと出てくる「典蔵」。
磯部のお屋敷の玄関で泥酔の宗五郎を縛って切ろうとしたり、
ご家老(浦戸十左衛門)に止められた後、
「あの毒薬で(ご家老を殺せ)!」
なんて、とっても不穏なことを言ったりしますが
何???
お蔦さんは殺され、さらに毒薬?
磯部家では何が起こっているの?
宗五郎の泥酔ぶりに大笑いしてる場合じゃない?
◆新皿屋敷?
新皿屋敷ってことは、旧皿屋敷がある?
そう!「播州(番町)皿屋敷」のことを指しています。
ご存じですよね?
「一ま~い」「二ま~い」・・・「九枚………ない」
と、お家の大切なお皿を割った罪を擦り付けられて
井戸に放り込まれたお菊さんが化けて出る
あれっ!
そうなんです。
「新皿屋敷月雨暈」も怪談だったのです!
お蔦さんは、先祖代々伝わる「抹茶茶碗」を割った罪を擦り付けられます。
不義密通の詮議の最中、
殿(磯部主計之助)の怒りを倍増させるために
割れた茶碗を持ち出し、さらに罪を上乗せ。
まんまと、嵌った主計之助は狂ったように
お蔦さんを切り殺し、お菊さん同様に井戸に放り込んでしまいます。
でもお蔦さんは、不義もしてなくて、茶碗も割っていないのに。
なんで殺されなければいけなかったの?
実は、聞いてしまったんです!
典蔵親子の、磯部家お家乗っ取り計画を。
・大酒家で悋気の主計之助を訴え、隠居させ若君に家督を継がせる
・そして、家老の浦戸兄弟を毒殺で暗殺する
お蔦さんが主計之助に伝える前に
どうしても、殺してしまわなければいけなかったんです。
お蔦さん。
典蔵一味にさんざんに打ちのめされ、
手に入れた毒薬の効果が確かか、どうかの試し飲みまでさせられます。
そして、最後は主計之助に切られ、井戸へ。。。
ひ、ひどすぎる。。。
「酒乱の役がやりたい!」
こんな発注を
「酒乱」×「怪談」×「お家騒動」+「菊五郎二役」で
納品する黙阿弥さん!
さすが!!!
◆化けて出る?
怪談物ということは、化けて出る?
そうなんです!
無残に殺されてしまったお蔦さん。
成仏しきれませんでした。
けどね、殺された恨みじゃないんです。
無罪の訴えでもないんです。
どうしても伝えないといけないこと、
「典蔵親子のお家乗っ取り計画」を伝えないと死ねない!
なんて、いい娘なの!!
誰に伝えたかというと
不義の相手にさせられた紋三郎さん。
伝蔵親子が毒殺しようとしている浦戸兄弟の弟。
お兄さんは、宗五郎が酔っぱらって
お屋敷の玄関先で暴れているのを助けてくれた理解ある
あの、ご家老さま。
不義の疑いをかけられ、
身の潔白を証明するために腹を切ろうとしている
紋三郎さんのところへ、お蔦さんは現れます。
お家乗っ取り計画を伝えることができたお蔦さんは
「御恩を受けた主計之助を見守ります」と言って成仏していきました。
本当に、できた娘だ~(涙)
◆なんとなくわかるけど、ラストは?
魚屋宗五郎の終わりに
お家乗っ取り計画がバレた
典蔵が出奔した知らせが入ってきます。
宗五郎は、敵を討たねば!
と、お屋敷を出るところで幕です。
が、物語は続きます。
芝明神のお祭りでにぎわう境内。
出刃包丁を振り回す宗五郎と、逃げる典蔵。
紋三郎が助太刀に入り典蔵と大立ち回り。
そこで典蔵を捕え、めでたしめでたし!
お蔦さんは戻ってこないけど、スッキリ爽快!
魚屋宗五郎は、世話物と呼ばれる庶民のお話で
おもしろく観ることができますが、
たっぷり通しでも見てみたい!
今、立ち役も女形もできる器用な役者さんが
たくさんいらっしゃいます。
ぜひ、お願いいたします!(関西で!)
今年の顔見世は昼の部では内蔵助が、
夜の部では、お種さんと、宗五郎が
大酒に酔っていました。
こんなにお酒に酔う演目が並ぶのもめずらしい!
年末年始、お酒を飲む機会が増えますね。
ほどほどに飲んで、楽しくお過ごしくださいね。
ちなみにわたしは下戸なので、酔っぱらっていく方々を見てるだけ~(笑)
令和に変わって、連載も装い一新。
今年もつたない文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
来年もどうぞお願いいたします。
2019(令和元)年 師走 安積美香